やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史 番外編 「移植の『い』」
¦
/ ̄ ̄ ̄\ __j!__
/ _ノ ヽ、 \  ̄|! ̄
| (●) (●) | ¦ _j|_
. | (__人__) |  ̄|! ̄
| `⌒´ .| ____
| } * /_― ' ―_\
ヽ } /(●) (●) \ 2016年、明けましておめでとうございますお。
ヽ ノ /::::::⌒(__人__)⌒:::::: \
十 /ゝ ''''''/>\ | |r┬-| | 「やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史」の本編は
/ イ(,,,/ / ヘ \ `ー'´ /
/ l | Y | / l ヘ / ,イ(, ,,)/> \ 完結したけど、今年もよろしくお願いいたしますお。
( | | :、 | / | ) ( l ヘ |:Y | / l )
/ ̄ ̄\
/ _ノ \ さて、去年を振り返るといろいろあっただろ。
| ( 一)(●)
| (__人__) 中の人の周りでは、2007年に発表され、翌年にはPC-6001の実機でも
| `⌒´ノ
| ,.<))/´二⊃ 動くようになった松島徹氏の「特攻空母ベルーガ」が、セガの「龍が如く0」の
ヽ / / '‐、ニ⊃
ヽ、l ´ヽ〉 連動コンテンツとしてプレイステーションVita用に
,-/ __人〉
/ ./. / \ パワーアップ移植されたのが話題だったな。
| / / i \
|" / | > )
ヽ/ とヽ /
| そ ノ
. __
-´ ``ヽ
. / ⌒ `ヽ 43話でのっけから話題にした「YU-NO」のリメイク移植は、
/ `ヽ ヽ
. (( / (●) ヽ なんだか発売が延びちゃったみたいだお。そういえば、
|::⌒(__ (● ) }
ヽ 人__) ⌒::::. | 「ザナドゥ」の発売30周年記念で、歴代シリーズをWindows上で遊べる
ヽ(__ン |
人. / | | 「ザナドゥコンプリートコレクション」ってのもこないだ出てたお。
/ _ノ ノノ
|
|
/ ̄ ̄\
/ _ノ \. ところでだ。何気なく使っている「移植」という日本語だが、
| ( ●)(●)
. | ::::::⌒(__人__) これがもともとコンピューター用語ではないことはわかるだろ。
| ` ⌒´ノ
. | }. 。
. ヽ } /
ヽ ノ ./
/ lヽ介/lヽ、 ,rE)
. | | ~ヾ/~ |. ソ◇'
| | ゚| |\/____E[]ヨ__________
_ | | ゚| |__
|\  ̄ヽ⌒ヽ⌒ヽ \
|\\ ⌒ ⌒ 甘 \
| \| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
____
/^ ⌒ \
(へ) (へ ) \ そりゃあそうだお。
/⌒(__人_)⌒:::::: \
| ヽvwwノ | 植物を別の場所に移しかえるってのが文字通りの意味だお。
\ `'ー' /
/ ̄ ̄\
/ ノ ヽ /\'ー、 ,, ..,、 「移植」のコンピューター用語としての使われ方は、昨今では
| ( ●)( / .\` 、 . // /
. | (__人/ \ヽ、,.// ../ だいぶ認知が広がっているようだろ。中型国語辞典のベストセラー
| ` / ``77 /
. ヽ / / / / 「広辞苑」でも、2008年の第六版で語義の説明が追加されている。
ヽ.. / fヽ、/ / , -,./
/./ r-、 ヽ ∨,ノ /
|. \ 〈\.\,〉 `, f
| . \ (ヽ ヽ `.. |
| .\ \ ノ
____
/⌒ ⌒\ ホジホジ
/( ●) (●)\ ファミコンなんかで移植版のゲームがいっぱいあったことを考えたら、
/::::::⌒(__人__)⌒:::::\
| mj |ー'´ | ずいぶん時間がかかった感じがしなくもないお。
\ 〈__ノ /
ノ ノ
__
/ _ノ\
/. (●), まあそのあたりは、専門用語の辞書でないことを考慮する必要はあるな。
| (__ノ、)
. | | さておき、この「移植」という言葉は、コンピューター用語としては
. ヽ |
ヽ ノ どうやら40年ほどの歴史しかないようだろ。
ヽ (
> ヘ
| |
| |
____
/⌒ ⌒\
/( ●) (●)\ 40年ほど「しか」ないってのもずいぶんおかしな気もするけど、
/::::::⌒(__人__)⌒::::: \
| |r┬-| | つまり、大型コンピューターしかなかったとか、ミニコンピューターが
\____`ー'´____/
(( ( つ ヽ、 出てきたばっかりとかの時代にはなかった言葉なんかお。
〉 とノ ) ))
(__ノ^(_)
/ ̄ ̄\
/ _ノ \ そういうことらしい。今回は、この件について
| ( ●)(●)
. | (__人__) 紹介することにしよう。それじゃ、始めるだろ。
| ` ⌒´ノ
. l^l^ln }
. ヽ L }
ゝ ノ ノ
/ / \
/ / \
. / / -一'''''''ー-、.
人__ノ (⌒_(⌒)⌒)⌒))
────────────────────────────────────────
/ ̄ ̄\
/ ─ ─\ やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史
| (●)(●)|
____. .| (__人__) | 番外編
/ \ ` ⌒´ ノ
/ ─ ─\ .} 「移植の『い』」
/ (●) (●) \ }
| (__人__) | ノ.ヽ
/ ∩ノ ⊃ /∩ノ ⊃| |
( \ / _ノ | |/ _ノ | |
.\ “ /__| | /__| |
\ /___ //___ /
────────────────────────────────────────
/ ̄ ̄ \
_,ノ ヽ、,_ \ さて、中の人がいくつか調べてみた限りでは……もっとも、
(●)(● ) |
(__人___) | それほど多くの資料を調査できたわけではないが、ともかく、
'、`⌒ ´ u |
| | 今の辞書に載っているコンピューター用語としての「移植」という
ヽ 、 イ
ィヽ-ー ≦ノ7 言葉が、1976年以前に使われた例は確認できなかっただろ。
_, 、 -― ''"....:::::::::::::::::::::::::::ト、
/.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::........--、 少なくとも、当たり前に見かける表現ではなかったのは間違いない。
丿.:::::::::::::::i::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::r::::: {
r :::::::::::::::::::::|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`,::::i
___
/ \
/ _ノ '' 'ー \ ってことは、その頃は、
/ (●) (●) \
| (__人__) | 移植そのものがほとんど行われてなかったんかお?
\ ` ⌒´ /
/ ̄ ̄\
/ ヽ、_ \ いや、そんなことはないだろ。ただ、「○○という機種に
(―)(― ) |
(__人__) | △△というソフトを移植する」の代わりに、「○○用の△△を
(`⌒ ´ |
.l^l^ln | 開発する」と表現しても、それほど問題があるわけではない。
.ヽ L ノ
ゝ ノ ノ
/ / ヽ
/ / |
___
/ \ キリッ
/ \ , , /\ そう言われてみれば、たしかにそうだお。
/ (●) (●) \
| (__人__) | そしたら、どうして「移植」って言葉が出てきたんだお。
\ ` ⌒ ´ ,/
. /⌒~" ̄, ̄ ̄〆⌒,ニつ
| ,___゙___、rヾイソ⊃
| `l ̄
. | |
/ ̄ ̄ \
/_,ノ `⌒ \ そのきっかけを探っていくと、1960年代の末に行き当たる。この頃、
-、 | (● ). (● ) |
ヤ ', | .(___人___) | 「ソフトウェアエンジニアリング」、つまりソフトウェア工学なるものが
i. l ,.-、 | ` ⌒ ´ |
', j / / .| | 提唱された。ごくごくおおざっぱに言えば、よいソフトウェアを、できるだけ
ノ_..ヽ-、′,' ', ,/'|、
.l .___ ヽノ __ .j '.、__ , ___ ィ/::L_ 間違いなくつくり、適切に管理するための方法を研究する学問だろ。
Y )ハ.‐ ' ´ ..::ヽ::::::::::::::::::::::::::/:::::::...`' ー- 、 _
ト.  ̄ ̄ 〕y::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::..\
ハヽ 一ニイ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: r;;;;;:::::::: ',
/...::::::;;;;;;;;;;; /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ノ;;;;;::::::::::::::〉
_____
/ \
/ ⌒ ⌒ \ それだけ、ソフトの規模が大きくなってきた時代なわけだお。
/ ( ●) (● ) \
| (__人__) |
\ 凵 /
/ \
/ ̄ ̄\
/ノ ヽ、_ \ この中で1970年代に入り、ウィリアム・ウルフ氏がソフトウェア品質を示す
. (●)(● ) |
. (人__) | 属性を定義。さらにバリー・ベーム氏がソフトウェアの品質特性を体系化し、
|⌒´ |
. | / 品質モデルとして提案しただろ。これらで挙げられた属性、特性の中に
. ヽ /
. ヽ. / 「portability」があり、ソフトウェア製品の品質に関わる規格として後に登場した
,-‐)__, /⌒l
. /;─ー〉》 /l JIS X 0192-1:2003では、この言葉に対し「移植性」の訳語があてられている。
. (_ンー‐-,r'´ . |
| |
____
/ \
/ ─ ─ \ コンピューター用語としては、
/ (●) (●) \
| (__人__) | 「移植」より先に「移植性」があったってわけかお。
\ ` ⌒´ ,/
/⌒ヽ ー‐ ィヽ
/ ,⊆ニ_ヽ、 |
/ / r─--⊃、 |
| ヽ,.イ `二ニニうヽ. |
_____
/ .r┐ヽ「|
/ r-、 | .| ./ l l゙l そういうことらしい。ただし、「portability」は最初から「移植性」と
. / .__,ノヽ ゙、_,ノ '-' .|,,/ |
| (●)ヽ ノ ´/ 訳されていたわけではないだろ。例えば雑誌「bit」の1977年
| 〉 〈_,,.-、
.| (__人{ .r''´ 4月号掲載の「ソフトウェア・エンジニアリングへの道」という記事に、
.| ´ ⌒| _,.-i'´
. .{ l-‐'''''''ーl } ベーム氏のソフトウェア品質モデルの図が掲載されているが、
{ . |´ ̄ ̄``l }
{ .| |.} ここでは「portability」に「携帯性」という言葉があてられている。
/ ̄ ̄ ̄\
/ / \ \ 「他のコンピューターに持っていきやすい」っていう意味では合ってるけど、
/ (●) (●) \
| (__人__) | じゃあそのための作業を「携帯する」とか「携帯作業」と呼んでいいのかって
\ ` ⌒´ /
/ \ 考えると、ちょっともやもやするお。
/ ̄ ̄ \ -、_
_,ノ ヽ、__ / / ,〉、 そうだな。一方1974年1月発行の雑誌「事務と経営」の
(=)(= )/ ´/ /)
(__人_) { , ' ´,/ 連載記事「ソフトウェア・エンジニアリング」では、この作業を
'、`⌒ ´ V __, <´
| 〈´/::::Λ 「別の機種への変型」と呼んでいる。こちらはこちらで、
| ヤ::::::::::::::Λ
`ュ`ー─ー V::::::::::::::Λ 「変型する」「変型作業」という形で使う分にはまだいいが、
/ム _ , -./V::::::::::::::Λ、
_,. -/:/:::ハ ,/´..::/i:::::::::::::::::::Vヘ 「変型性」とするとちょっと意味がわかりづらくなってしまうだろ。
//./.:::/:::l y .::::::/::::i::::::::::::::::::.∨}
j ::::::::>.:::/:::::l ./ .::::::::::::::::i::::::::::::::::::::レ;
i :::r :〈 ::::i::::::::レ .::::::::::::::::::::〉、:::::::::::::::::ノ
___
/ \
/ \ あっちを立てればこっちが立たずな感じだお。
/ \ , , / \
| (ー) (ー) |
\ u. (__人__) ,/
ノ ` ⌒´ \
/´ _i⌒i⌒i⌒i┐ ヽ
| l ( l / / / l
l l ヽ /
/ ̄ ̄\
/ ノ ヽ、.\ そんな中で1977年夏、ピーター・ブラウン氏の「MACRO PROCESSORS
| (●)(●) |
/ ̄ ̄ ̄ 丶人__). | and Techniques for Portable Software」が、鳥居宏次、杉藤芳雄、
/ \ ._|_____
, --'、 / `〉 真野芳久の三氏の翻訳により、「マクロ・プロセサとソフトウェアの
/ ⌒ ) / /
,′ ノ / / 移植性」の邦題で出版された。書籍の題名に、コンピューター用語の
l T´ .._ ./ r'´ ̄ヽ
ヽ ノ ./丶、 / (  ̄ l 「移植」という言葉を用いたのは、どうやらこれが最初のようだろ。
`'ー'´ | .`'ー'――┬― --、/ _.ノ
____
/ \
/ ─ ─\ ほー。
/ (●) (●) \
| (__人__) | この人たちは、どういうきっかけで「移植」っていう言葉をあてたんだお?
/ ∩ノ ⊃ // ∩ノ ⊃
( \ / _ノ \/ _ノ
. \ “ / . \ “ /
\ / /\/
\ \
\ \ \
> > >
/ / /
/ ̄ ̄\
_ノ ヽ、_ \ その点については、この本の中では説明されていないので、
(●)(● ) |
(__人___) | 三氏の間での独自の発想なのか、それとも前例があったのかは
| |
| .| 調べきれなかっただろ。が、いずれにしても、この本の発行後あたりから、
ヽ 、 ,イ
/ヽ,ー- ト、 コンピューター関連の雑誌や書籍で「移植」という言葉が
_, 、 -─ '".:.ヽ:.:.\__ /ノ ト、__
__ ,. ー 、...:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.... 使われるケースが、急速に増えていったということが言える。
\ r 、 _ \:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:::::::::::::::::::::::::::::'ー、
} }/ ) V::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
/:ゝ/ ./ __ V ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i:.:.:.\
}:::::ゝ ソ ,Y i::::::/::::::\:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|:.:.:.:. \
.. ____
/ ― -\
.. / (●) (●) そうなんかお。
/ (__人__) \
| ` ⌒´ |
. \ /
. ノ \
/´ ヽ
/ ̄ ̄\
/ ヽ、_ \ 例えば「bit」の1978年2月増刊「マイクロコンピュータのプログラミング」では、
(●)(● ) |
(__人__) | スタートレックを扱った石田晴久氏の記事などに「移植」という言葉が見られる。
( |
. { | さらに「アスキー」の同年2月号に掲載された白石孝次氏の「マイクロBASIC
⊂ ヽ∩ く
| '、_ \ / ) インタプリタの製作」では、各セクションの標題が、「移植手順」「移植の実際」
| |_\ “ ./
ヽ、 __\_/ 「移植を終えて」「システム移植のすすめ」などとなっているだろ。
___
/ ノ' ヽ_\
/ ( >) (< \ まさに「移植」だらけって感じだお。
/ ::::::(__人__) |
. | `i i´ |
\ _ `⌒ ./
/ ⌒
/ ̄ ̄\
/ _ノ .ヽ、\ この直後、1978年4月に発行された安田寿明氏の
| (●)(●) |
. | (__人__) .| 「マイ・コンピュータ」シリーズ第3弾「マイ・コンピュータをつかう」でも、
| ` ⌒´ ノ
. r─一'´ ̄`<ヽ } 東京電機大学版BASICの紹介で「移植」の言葉が出ているだろ。
. `ー‐ァ , ) , -'~⌒ヽ、
ノ {. ,ヘ ,l. ゝ、_ .'ヽ). マイコンブームを盛り立てた安田、石田両氏に加え、アスキー誌上でも
. /, 、 _ /. | . ', . .. .ヽ、
(/ / // / / ...| ...|\..\\ \_) この言葉が使われたことが、相当な影響力があったのは想像に難くない。
/ // / / . . \_\_)、_)
ー' {_/ノ ."´
____
/ \
/ ⌒ ⌒ \ それだけ、「携帯」とか「変型」にくらべると、使い勝手がいいわけだお。
/ (⌒) (⌒) \l⌒l
| (__人__) |`''|
\ ` ⌒´ _/ /
/
/ ̄ ̄\
/ ヽ、__ .\ うむ。しかも、これらのどの記事でも、「移植」という言葉の意味を
(⌒)(⌒ ) |
(__人___) | わざわざ説明してはいない。もちろんある程度の基礎知識があることが
l`⌒ ´ |
| | 前提の記事や書籍とはいえ、「○○に△△を移植する」というような
| 、 _,.ーへ
_. -: ::::ヽ__「 v、___ 表現だけで、意図するところがわかると判断されたわけだろ。
__,. <::::::::::::::∧:::二〈 、 ∨:::::\
/:::::::ヽ :::::::::::::::::::::::::::::::ヽ_〉、 -ー、:::::∧
/::::::::::::::ト、::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`ー/ ::::::::>:、::ハ
〈::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::く::::::::::::::::::::::::v::、
/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::Λ::::::::::::::::::::::::ヽ|
____
/ \
/ ⌒ ⌒ \ なーるほど。
/ (●) (<) \
| (__人__) | そう考えると、「移植」ってのは見事な意訳だお。
\ `⌒´ ,/
/_∩ ー‐ \
(____) |、 \
__
/ノ ヽ\
/(●)(●) \ 1982年には、BASICの基本的な規格としてJIS C 6207:1982、
| (__人__) |
| | 後のJIS X 3003:1982が登場した。この規格書を見ると、冒頭の一節に、
. | |
. ヽ / 「この規格は、さまざまな自動データ処理系の間でのBASICプログラムの
ヽ /
/ ヽ 移植可能性を高めるために、BASIC言語を規定する。」とあるだろ。
| |
| |
(ヽ三/) ))
__ ( i)))
/⌒ ⌒\ \
/( ●) (●)\ ) もうその頃には、正式な規格書に当たり前に登場するくらい、
./:::::: ⌒(__人__)⌒::::\
| (⌒)|r┬-| | 「移植」の言葉が広まってたわけだお。
,┌、-、!.~〈`ー´/ _/
| | | | __ヽ、 /
レレ'、ノ‐´  ̄〉 |
`ー---‐一' ̄
/ ̄ ̄\
/ 〉 _ノ ヽ、_ \ 一方で、ソフトウェアの品質の評価要素というところから出てきた言葉の
/ /' ( ―)(― ) |
./ //〉 (__人__) │ 「移植」が、この頃には、アーケードのビデオゲームをパソコンや
.l ´ イ| `⌒ ´ |
.l iY | 家庭用ゲーム機向けに作り直すという、移植性があるとはお世辞にも
./ ハ ! /
./ / ' ヽ / 言えない状況下での行為を指す言葉としても広まっていたわけだろ。
l / .〉-r:::┬〈、
__「 ー‐1 ./Λ 〉.:〈 7//\ これは見方によっては、なかなかに皮肉な現象と言える。
i//7777|/////V::::::V/////\
|//////|//////∧::://///////}
|//////| ///////∨/////////{
____
/_ノ ヽ\
/ ( ●) (●)、 そりゃまあ、ゼビウスやらスペースハリアーやらのアーケード版を、
/::::::::⌒(__人__)⌒\
| |r┬-| | パソコンや家庭用ゲーム機のことを考えて作ってたわけがないお。
\ `ー'´ /
⊂⌒ヽ 〉 <´/⌒つ
\ ヽ / ヽ /
\_,,ノ |、_ノ
/ ̄ ̄\
/ ヽ、_ \ まあ、1980年代も中盤になると、ファミコンに対する任天堂の「VSシステム」、
(●)(● ) |
(__人__) | セガ・マークIIIに対するセガの「システムE」のように、家庭用ゲーム機と
(`⌒ ´ |
. { | CPUや周辺LSIに互換性を持たせたアーケード向け基板が登場したがな。
{ ノ
ヽ ノ 1990年代に入っても、プレイステーション互換基板とか、
ノ7i:7、/]ヽ
/.:i..:::ソ/.::.ヽ セガサターン互換基板などがいろいろ登場しているだろ。
____
/ \
/ ─ ─\ 2000年代に入ってからの話になるけど、XBOXなんかは、
/ (●) (●) \
| (__人__) | パソコンとの間での移植性を最初から考えてる家庭用ゲーム機なわけだお。
\ ` ⌒´ ,/
r´ \
/ \
. / /___rっ=―=c、_ ヽ
ヽ_____ア__弋_)_ ノ
. / ̄ ̄\
. / ,ノ \ Y⌒i __ 一方でパソコンゲームを手がける企業の中には、
| (●)(●) | | ./ .)
. | (__人__) .| | / ./ パソコンの多数の機種に、最小限の手間でゲームを移植するため、
| ` ⌒´ リ i_/ ./
. ヽ / ,`弋ヽ 移植性の高い環境を早くから構築しようとしたところも少なくなかった。
__ ヽ - γ⌒ヽ Y´ ,`ヽ
/ : : :介〈 `ー 、く 〈::...ノVヽ 例えばハドソンは、1983年頃には、既にこういった環境を
| : : : : ::〈 「`ヽ_ー 、 `ヾ_/ //:|
| : : : : : /: | {::::} フ-、`ー┴‐- │ 完成させていたとされるだろ。
| : : : 〈: :│ {::::l /. :`ー‐一′ ::|
____
/ \
/ \ / \ うーん、さすがの技術力だお。
/ (●)i!i!(●) \
| u , (__人__) |
\ .`⌒´ 〆ヽ
/ ヾ_ノ
/rー、 |
/,ノヾ ,> | /
ヽヽ〆| .|
/ ̄ ̄\
_,ノ ヽ、_ \ ただ、移植性の高さは、プレイヤー側から見た場合、面白いゲームならば
(●)(● ) |
(__人___) | うれしい話かもしれないが、そうでなければ何の意味もないことになるだろ。
'、 |
| | 結局、移植性の高低とゲームが面白いかどうかには直接の関係はない。
| , /_.{
`ァニニ<//〉、__ __
,./ /\ / : : : : : : > : :\
_/ /|イ:::::/∨. : : :l: : : : : : : : : : :.丶
/. : : : :| ./`Y / : : : 」: : : /: : : : : : : : }
,´ : :/: : : :| i::::::|/ : :/: : : /: : : : : : : : :|
{ : :/. : : : :|/:::::/ : : : : : : : | : : : : : : : : : ,'
/ : :,' : : : : : |::::/ : : : : : r---く´ニ\: ヽ:ノ
、'ーr,_| : : : : : :|:/ : : : : :_/二ヽ V: : : : ` :´
/ :./ ̄>< :./ : : : : :/ 二 ヽ_」┘: : : ∨}
/ : : :ム / : : : : ̄ ̄ ̄ ̄~゙''-ゝ.」: : : : : ∨ :}
____
/⌒ ⌒\
/( ―) (―)\ 移植性が低くても、面白ければがんばって移植する価値があるってことだお。
/::::::⌒(__人__)⌒::::: \
| |++++| 」_ キラッ |
\ `ー''´ l /
/ ̄ ̄\
/_ノ `⌒ \ うむ。そして、移植先のハードウェアの性能が低ければ、それによる移植性の
_ .| (● ) (⌒ ) .|
| ! | (__人___) | 低さをカバーしなければならないし、逆に性能が高ければ、元の作品の
| ! | ` ⌒ ´ .|
| ! ,.-,| | 要素を発展させていくことがしばしば求められる。こういったところに、
._,ノ ┴、/ ,/ .| /
.r `二ヽ ) i ヽ / 移植者の創意工夫とセンスがあらわれるわけで、これがビデオゲームに
.| ー、〉 / 〉 <
.| r_,j j / ̄ '' ̄ ⌒ヽ おける、移植そのものが持つ独特の面白さと言えるだろ。
.| ) ノ/ { ィ, }
ノ ,/ | |{ |
____
/\ /\
/( ●) (●)\ 移植元のゲームを楽しんで、移植版のゲームも楽しんで、
/ :::::⌒(__人__)⌒:::::\
| |r┬-| | さらにふたつの違いを楽しむことができれば、3倍楽しめてお得だお!
\ ` ー'´ /
/ ̄ ̄ \
⌒ `⌒ \ と、ちょっと短いが、今回はこんなところにしておこう。
( >) ( ●) |
(__人___) | また機会があれば、お目にかかるだろ。
'、 |
,,. -ー| |ヽ___
/ .::::〉-、_ ___ /ィ::::::::::::..`' ー-、
l ::::://// ,ヽ__,. ":::/::::::::::::::::::::::.. ヽ
」 :::/ 代_|二::::/ :::::::::::::::::::::::::::::::..\
l ::::/__ /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/:::::::::::::::: i
L√:::::>、<:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l :::::::::::::::::: |
ハ::::::::::::::::v":::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::| :::::::::::::::::::: |
ハ::::::::::::::::: 〉ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::| :::::::::::::::/::||
ハ:::::::::::::::::: i/\:::::::::::::::::::::::::::::::::::;| ::::::::::::::::::: ノ::|
/ ̄ ̄\
/ _ノ ヽ .____
| ( ⌒)(⌒)/⌒ ⌒\ それじゃ、次回までバイバイだお!
. | (__人__) .(●) ( ●)\
| ` ⌒ノ ⌒(__人__)⌒:::::\
. ヽ } . |r┬-| . |
.ゝ_,. ノ____`ー'´___./
-(___.)-(__)___.)─(___)─
やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史
番外編
「移植の『い』」 おわり
※ツイッター上で、1975年10月の情報処理学会誌「情報処理」に掲載された和田英一氏の記事
「ソフトウェア工学とプログラム言語」に、「移植性のよさ」「ソフトウェアの移植」など
「移植」という言葉が使用されているという情報をいただきました。
この記事では、「見出しの「移植」は英語でいうポータビリティとかトランスファラビリティの
つもりである。」との説明がある一方、同じ号の他の方の記事では「プログラムの移行」、
「プログラム・トランスファラビリティ」、「コンバージョン」など類似の記述はあるものの
「移植」の語は使われておらず、この時点ではかなり新しい表現だったことが窺えます。
(2016/1/4追記)
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